ダイアリー 第8話

本当に正直な話、今から席を立ってどこへでも良いから逃げ出したい。この場を離れたい。
すると佐和が亜麻音の方へやってきた。

「亜麻音・・・私のペア森くんなんだけど、交代する?」
佐和は少し残念そうに森の方を見ながら勇気を奮って言ったようだった。

「え、イヤ・・・別にいいよ」

とは言ってみたものの、気が進まないのは見え見えだ。さすがに佐和もその見え見えな態度に気付いた。
「亜麻音、どうせペアの有間くん、イヤなんでしょ?」
コソッと亜麻音に耳打ちをする。
「いいよ私は。代わってあげるって。」
そうさせてもらうととてつもなくありがたい!!!・・・でも、そんなわけにはいかないんだけどね。

「ううん・・・。私、いいから。気遣わないで!佐和は森と。私は有間と。これでいいじゃん?」
「なんで・・・・?どうしたの、亜麻音?」
熱でもあるんじゃないの?とでも言いそうな心配と困惑の入り交じった顔で見つめてくる。
たしかに、熱はあるかも。

でも、ムリ。私は、佐和と約束したんだもん。未来の佐和・・・とね。


「・・・・佐和、私はここでいい。」

今度は強い意志で言った。少し、本当にこれでいいの?と私の恋心もうずいたが、約束は約束だし、私が応援するって自分で言ったしね。
この言葉は優しい佐和への心に大きく効果をもたらしたようだった。

「・・・・そっか。亜麻音がそう言うんだったら。」
ニコッと笑って佐和は森の方へ戻っていった。

さ・て・と。

この秋葉くんとがんばりますかぁー。気持ち悪いけど。

似顔絵を描き始めて数分、ついに沈黙に耐えきれなかったのか有間が口を開いた。
「なぁ、須川」

「ん?」

「ボク、この前メイド喫茶に行ったんだよ。」
「ふーん」
「で、すっげー可愛い子がいてさ、」
「ふーん」
「その子の事ジーって見たんだ。」
「ふーん」
「そうしたら、その子と須川、そっくりでさ。」
「ふーん」
「ボク惚れちゃって。・・・須川に」
「ふーん」
「この須川の似顔絵に、メイド服着せてもいいかなぁ?」
「ふーん」

・・・。

・・・・・・・・・?

・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!??????

10秒後、有間の言っている意味がようやく分かってきた。・・・・わけでもないが、そこそこ分かったような気がする。でも、

「イヤイヤイヤイヤイヤ。意味不明すぎる!!!!!なんでそのメイドの子が私に似ているっていうだけで惚れるわけ!?
 まずそこが意味不明!!!次に、メイド服を着せる意味が分からない。そこも意味不明!!私には理解不能!!!!」


やっぱり意味が分かんない。私には分からない。

「だから、そのメイドの子を見て気付いたんだ。須川がいいなって。」
「意味不明」
「そんで、メイド服があまりにも似合いそうだから。」
「意味不明」

亜麻音が意味不明を連発するので、有間の声がだんだん大きくなってきた。

「意味ぐらい分かれよ!!とにかく、メイド服を着させる。」
「ダメーーーーーーーー!!!!!!!分かった、意味は理解してあげるから、それだけはやめてほしい!!!」
「なんで。」
「だって、私秋葉系イヤなんだって。嫌いなんだってーーー!」
ほぼ涙声になって亜麻音は言ったが、効果無し。逆に、有間は怒り出したのだ。

「はー?オイ、秋葉系をバカにするなぁぁ!!!」
わー。私ってば、バカ?そういえばこういう人って、自分の趣味を侮辱されるとかーなり怒るんだっけ?

有間はジリジリと亜麻音の方へつめより、差は20センチほどしかなかった。

「オイ、あやまれ。」
「なんで」
「秋葉系をバカにしたからだ」
「・・・・よく考えたら、なんで謝らなくちゃダメなの!!趣味なんて、人それぞれじゃん!私は私の意見を述べただけなのに」
それを言うと有間は一瞬ひるんだが、すぐにまた言い返した。
「いいから謝れ!」
「分かった。秋葉系大好きなあなたに対しては謝る。ごめんなさい。でも、秋葉系がイヤっていう私の意見に関してはいっさい謝らない!」
「ダメだ!!」
「謝らない。」
「あやまれ!」
「謝らない。」
「あ・や・ま・れ!」
「あ・や・ま・ら・な・い」

とうとう有間と亜麻音の距離が10センチを切ったとき、桑田がガタッと立ち上がった。

「先生。須川が具合悪そうです。」
「え、そうなの?」
そう言うと先生は亜麻音の顔を見た。亜麻音は有間に詰め寄られて顔が真っ青だったらしく、
「まぁ、本当に具合悪そうね。あ、そうだ。桑田くん、もうあなた似顔絵できてるみたいだし、保健室に連れて行ってあげて?」

「オレが・・・・・ですか?」
イヤそうな顔で桑田は亜麻音をギロリとにらんだ。
「ええ。お願いするわね」
「はぁ・・・。」
ほとんどため息のような返事で桑田は承諾。亜麻音はホッと一息ついた。

「よかった・・・・」

「ホラ、立てよ。保健室行くぞ。」

「うん・・・・。」

今は桑田が天使のように亜麻音には見えたのだった。

                                *つづく*